大津簡易裁判所 昭和39年(ろ)35号 判決 1964年7月13日
被告人 一井正信 地方公務員
主文
被告人は無罪。
理由
本件公訴事実は「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三九年三月一日午後二時二〇分ころ、京都府公安委員会が道路標示によつて車両通行区分帯(以下「区分帯」という)を設け、かつ道路標識によつて法定の通行区分と異なる通行区分を指定した京都市中京区御池富小路西入附近道路において、第二種原動機付自転車大津二〇八〇号を運転して、通行してはならない第三区分帯を通行したものである。」というのである。
被告人が公訴事実記載日時場所において、京都府公安委員会が原動機付自転車は第四区分帯を通行することを指定した道路標識を見ながら第二種原動機付自転車を運転して第三区分帯を通行したことは被告人の当公廷における供述、証人青山寿一尋問調書、被告人撮影にかかる写真四葉によりこれを認めることができる。
被告人は、本件違反場所は当日始めて通つた道で、道路中央線と緑地帯の間が第一ないし第三区分帯に分けられて各路面部分にその旨の道路標示があるのに、緑地帯の外側は駐車地帯になつていて第四区分帯の道路標示は全然なかつた。なる程道路標識では第四区分帯を通るよう指定されていたけれども、道路標示がなくかつ駐車地帯と思われるところを通つて叱られては困ると思つて第三区分帯を通つた旨弁解する。
ところで前掲各証拠および裁判所の検証調書、司法巡査作成にかかる御池通(烏丸通~富小路通)の縮図、京都府公安委員会告示第五一号を総合すると、
(一) 被告人は公訴事実記載日時、第二種原動機付自転車を運転して京都市内烏丸通を北上し、御池通に右折して第三区分帯を東方に約四五〇米進行した京都市中京区御池富小路西入付近で警察官に停止を命ぜられ、違反である旨告げられたこと、
(二) 御池通は、京都市中京区を東西に走る、幅員四~五〇米の、完全舗装された道路で、烏丸通との交差点から東に向うと、約三五米で南北に走る車屋町通と交差し、それから東にほば六〇米前後の間隔で同じく南北に走る東洞院通、間之町通、高倉通、堺町通、柳馬場通と順次交差し、さらに約九〇米で富小路通と交差しており、道路中央線から左約一〇米の個所には、右各通との交差点付近を除き中央線と平行に幅約三米の緑地帯が設けられ、車屋町通から東の緑地帯と中央線の間は緑地帯とほぼ同じ長さの白線が二本引かれて三等分され、かつ車屋町通、間之町通、堺町通の各交差点付近各白線の始まる個所の道路部分には右から左に<1><2><3>順次と白色のペイントで標示され、一見して区分帯であることが明らかであること、
(三) 各緑地帯と歩道の間は約六米の道路部分であるが、車屋町通から東は富小路の先に至るまで歩道端に約四~五米間隔でパーキングメーターが設けられ、またところどころに駐車可の道路標識が立つていること、
(四) 京都府公安委員会は、昭和三五年一二月一九日、告示五一号をもつて御池通のほぼ全域に四区分帯を設け、路線バスを第三区分帯とする外は道路交通法施行令第一〇条第一項第三号の規定と同一の通行区分とする旨告示したこと、
(五) 前記緑地帯と歩道の間の道路部分には第四区分帯が設けられ、前記第一ないし第三区分帯の路面に標示された<1><2><3>と並んで<4>が白ペイントで標示されていたところ、道路工事のため本年始めころに消滅したままその後標示されていないこと、
(六) 本年三月一日現在、烏丸通から御池通に約一二米入つた最初の緑地帯上の地点とそこから約三六〇米東に進んだ柳馬場通との交差点東側付近緑地帯上の地点とに、道路交通法施行令第一〇条第一項第三号による通行区分を表示した道路標識が立つていたこと、
(七) 被告人は四区分帯を表示した右道路標識を見ながら、第四区分帯に当る緑地帯の外側には第四区分帯の道路標示がなく、しかも一見駐車地帯に見えるところから、同所を通つて叱られてはいけないと思つて第三区分帯を通行したこと、
以上の事実が認められる。
ところが道路交通法第八条第二項によると同法の規定により公安委員会が行う禁止、制限又は指定のうち政令で定めるもの(横断歩道や区分帯を設ける場合も同様)は、政令で定めるところにより道路標識等を設置して行わなければならないとされているから、公安委員会の行う道路の通行の禁止、制限等は、その処分の内容を標示する政令所定の道路標示又は道路標識によつてなされなければ効力を生じないものと解される。
そして道路標識、区画線および道路標示に関する命令第九条、別表第六によると区分帯は必ず白線で各区分帯を区分し、道路中央線と直角に交わる直線上の各該当個所に、右から順次<1><2><3>と数字をだ円で囲んだ所定の大きさの記号および文字を白で路面に記載してすることになつているところ、本件では前記認定のとおり、第一区分帯ないし第三区分帯の各路面部分に<1>ないし<3>の標示はあつたが、第四区分帯に該当する個所に<4>の標示がなかつたことが明らかであるから、第四区分帯該当道路部分については公安委員会による有効な区分帯設置処分が存在しなかつたものというべきである。
なお検察官は、区分帯は道路標示または道路標識のいずれによつても有効であり本件御池通には四区分帯を表示した道路標識が存在したのだから被告人は有罪である旨主張するが、区分帯を設けるのは必ず道路標示によるべく、道路標識は道路交通法施行令第一〇条各号に規定する通行区分と異なる通行の区分が指定される場合にのみ設置されるものである(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令第二条、別表第二)から道路標識をもつて道路標示に代えることはできない。
よつて被告人の本件所為は何ら罪とならないものであるから刑事訴訟法第三三六条前段により被告人に対し無罪の言渡をする。
(裁判官 北沢和範)